6月 6, 2007 | In: community

「ご近所よりもネット」なんですか?

産経新聞の連載企画「溶けゆく日本人」で『ご近所よりネット 人間関係の不全』という記事が掲載されていました。

この記事の流れを要約すると

1. 「自分さえよければいい」「人とのかかわりを持ちたくない」という人々が増えているのではないか。

2. 地域社会とのかかわりが希薄になった結果、孤独死が増えている。

3. 地域コミュニティーが崩壊し、コミュニケーション能力が著しく低下した子供も増えている。

4. わずらわしい人間関係を避け、自分にとって心地よい関係だけと付き合う傾向は、インターネットと親和しながら、すべての世代に広がっている。

5. 家や共同体(国)の繁栄を目的とした伝統的価値観が崩壊した結果、唯一の価値が自分になったのだ。

というようなことのようで。

えーと、結局どうすればいいって話なんでしょうかね?
「家や共同体(国)の繁栄を目的とした伝統的価値観」を取り戻せと仰りたいのでしょうか。
無理だと思うんですよ、それは。

世界は個人をエンパワーメントする方向で動いているわけですから、この時代に生きる人々がその世界に適応しようとすれば「伝統的価値観」とやらを持ち続けるのはコストが掛かりすぎるのです。

そして、「自らがよりよく生きるために新しい価値観を造り上げていく」という行為は

鎌倉時代の武士が『一所懸命』を心掛けたように

戦国時代の武士が『下克上』を掲げたように

明治時代の国民が『富国強兵』の掛け声に付き従ったように

私たちのご先祖さまたちが、それぞれの時代、社会の中で、もがき苦しみながらやってきたことでありましょう。

私には、この日本という国がまがりなりにも今まで滅びず、むしろ繁栄してきたという歴史は、これまでご先祖さまたちが時代の変化にちゃんと対応してきた証に思えるのです。

だから、もし私がなにかしらの伝統を受け継ぐのならば、たかだか100年、200年程度の歴史しかない「家や共同体(国)の繁栄を目的とした伝統的価値観」よりも、その時々の状況に応じて外からの刺激を内に取り込む柔軟性を忘れないように心がけたいのです。

さて、そんな大きな話はさておき、上記の産経新聞の記事で違和感を持ったのは「ご近所よりネット」という表現です。

「ご近所」と「ネット」というのは相反する概念なんでしょうか?

私は実は成人後にご近所付き合いというものをほとんどしたことがありませんでした。
2年前まで神奈川の実家にいましたが、職場はもっぱら都心で通勤時間は片道1時間半。

終電で帰ることも多かったし、近所の人なんてせいぜい両隣の家の方々くらいしかわかりません。

一人暮らしをはじめた最初の場所でも、結局2階に住む大家さん一家としか近所付き合いらしきものはしませんでした。

そんな私が最も「ご近所付き合い」をちゃんとしているのは、今の住処に引っ越してきてからです。

そして、今の住処がこれまでとどう違ったかといえば、たまたまmixiの地元コミュニティが栄えていたというだけです。

オフ会に行ったら近所の人たちがいて「買い物はどこでするとお得だ」とか「駅前のパスタ屋はランチが安くておいしい」とか色々教えてくれるのです。

いま私が所属しているコミュには地元の区議さんもいて、すっかり仲良くなった私はこないだの選挙では手伝ったりしちゃいました。

現実問題、みんな忙しいのです。仕事をしている人間はそんなに地元にいないのです。

いるのは職場とかその近辺です。

地元の飲み屋に飛び込んでみるという手はあるかもしれませんが、私は人見知りなのでそういうところで知り合いをつくれる自信はありません。
そういう人見知りじゃない、コミュニケーション能力がある子を育てられないのが問題なのだ、という意見もあるかもしれません。
しかし、それはまた別の話です。詐欺や誇大広告にあわないようにリテラシー教育をしましょう、というのと詐欺にあった被害者を救済する仕組みをつくりましょう、というのはどちらが正しいかといった話ではなく、どちらも必要な取り組みのはずです。

そして、地域コミュニティを再生するための仕組み、インフラとして、ネットは使い道があるわけです。

非同期で複数の人間とコミュニケーションをとれるツールとしては、今のところチャンピオンの座にあるといってよいでしょう。

利用すればいいじゃない

地域コミュニティ、いいと思いますよ。昔ながらのご近所さんとの関わり方が難しい状況になっているのなら、新しい関わり方をつくればよいのでしょう?

「みんな自分勝手になった」というけれど、昔みんなが自分勝手でなかったとするならば、それは自分勝手では生きていけない時代だったから。

今は自分勝手でも生きていける時代になってしまったのだから「一人で生きていきます」という人だって当然出てきます。

それはよいとか悪いとかではない、そこにある「状況」です。

でも一方で、近所の人と顔が見えるコミュケーションをとりたい人だってたくさんいると思うのです。それもまた「状況」です。

地域コミュニティがあった時代から、ない時代に移るのではなく、地域コミュニティに入るか入らないか、入るとしてどの程度関わるか、それを一人ひとりが自分で決められる時代になるだけのことです。

それは、結構いいことじゃないですかね?

ネットは自分勝手に生きたい人にも、ご近所付き合いしたい人にも有用なツールです。

匿名で2chにカキコして戯れるのも、mixiのオフ会でリアルの友達をつくるのもネットに変わりはありません。

だから、そろそろマスコミの人たちものっかってくれないかな。

「ご近所よりネット」だけじゃありません。

「ご近所もネットから」ってこともあるんです。